映画徒然日記Vol.32 「ミッドナイト・バス」
「ミッドナイト・バス」(2018・日本)
監督 竹下昌男
原作 伊吹有喜
キャスト 原田泰造、山本未來、小西真奈美、遠藤雄弥、葵わかな、長塚京三
すっかり、役者として主役まで張る様になった原田泰造。
昔は、ウッチャンのコント番組「笑う犬」でセンターマンをやっていた面影を隠し
この作品では大人の男を演じている。
深夜バスの運転手が、主人公の為原田泰造自身がバスを運転するシーンが何度も登場す
るが、竹下監督の指示で大型自動車運転免許を取得して撮影にのぞんだ。
池袋から新潟間の深夜バスの運転手・高宮利一と息子、娘、別れた妻、その父、そして
今の恋人との関係を描いた人間ドラマ。
「曲がったことは大嫌い、は~らだ・たいぞうです!!」
と言ってた人が、見た目や振舞いは誠実な一面があるようだが
意外と自分勝手で、家族、恋人に対しても一定の距離を保ちながら
実は、周りに落ち着いた大人な一面を見せながら、自分や子供たち、元の妻、恋人との
未来に向けての答えは、目的地にはなくどこかへ置いてきてしまっているように見え
た。
それは、どこか諦めにも似たものか・・・。
でも、リアルな大人の男ってこんなもんだよな・・・。
と、まだ未熟な筆者は見ながら何とも言えない気持ちにさせられた。
トンネルのシーンが特徴的に使われている。
新潟に向けて走り、トンネルを抜けると父親。
東京に向けて走り、トンネルを抜けると一人の男。
と、トンネルが主人公の立場を変える魔法のようなものだ。
長尺の作品で、ゆったりとそれぞれの人間模様を丁寧に描いていることは
最近の邦画の中でも珍しく、とっても心に沁みてくるものがあったが
演出の古臭さが随所で見られたのが残念で勿体ないと感じてしまった。
筆者も、最近ではあまり使わくなってしまった深夜バスだが
この作品を見ていて、あの何とも言えない不思議なバスの空間では
いろんな事情を抱えた乗客が、それぞれの目的地へそれぞれの場所へ運ばれていく。
バスを運転している、運転手もまたいろんな事情を抱えながら
目的地へ向けて走っているのだなと感じさせられた。
アイドルやジャニーズが出てくる映画や漫画原作の映画を否定するつもりはないが、こういう心に沁みてくる様な邦画のお家芸とも言える映画がもっと作られてもいいんじゃないかなと思う。
映画徒然日記Vol.31 「ラスト・エンペラー」
「ラスト・エンペラー」(1978年・イタリア/中国/イギリス)
監督 ベルナルド・ベルトルッチ
脚本 ベルナルド・ベルトルッチ、マーク・ペプロー
製作 ジェレミー・トーマス
音楽 坂本龍一、デイヴィッド・バーン、スー・ツォン
キャスト ジョン・ローン、ピーター・オトゥール、ジョアン・チェン、坂本龍一
2歳で皇帝に即位し、そこから時代に翻弄される愛新覚羅溥儀の半生を描いたものだ
が、正に日本も平成から令和へと時代が移り変わり、5月から令和へ新元号に変わり、
10月に即位礼正伝の儀、11月に大嘗祭が行われた。
そんな、今だからこそ鑑賞する意味はあるのではないかと思い、数十年ぶりに再鑑賞。
再鑑賞たが、ほとんど覚えていなかったが、やはり序盤の紫禁城での即位のシーンは鮮
明に記憶に残っていた。
改めて見ても、この作品のスケールの大きさとエキストラの多さには、圧倒される。
故宮博物院での数週間のロケを敢行。
中国政府の許可がおりて世界初で行われたという事も公開当時話題を呼んだ。
今見ても、どのシーンもよく許可が下りたなと思う撮影が行われていて驚かされる。
これは、プロデューサーのジェレミー・トーマスの力の大きさを感じずにはいられな
い。
ベルトルッチの独特の赤・黄などの色彩の美しさを感じつつも
作品の雰囲気は、ジェレミー・トーマスが製作で関わった
大島渚監督の「戦場のメリークリスマス」とも似ている。
坂本龍一は、両方の作品に出演し音楽を担当している。
とにかく、壮大なスケールでどのシーンも華麗だ。
以前、見たときは長い作品だったイメージがあったが今回鑑賞し直してみて
溥儀の2歳から50代までを描いているが、とてもテンポが速く
少し置いてきぼりになってしまった。
当時の中国、日本、満州などの情勢などはある程度頭に入れておかないと
何が起こっているのか分からないまま進んでしまう。
ベルトルッチのめくるめく中国の壮大な歴史の1ページを
現実のものとは少し違う、まるで夢を見ているかのような色彩感覚にはうっとりさせら
れる。
ラストシーンは、不思議な余韻を残してくれる。
皇帝は、国の象徴でありながらも、一人の人間、一人の男性として、大胆に脚色をしな
がらも描いたこの作品は、時代が変わった今だからこそ多くの日本人にあらためて見て
ほしい。
映画徒然日記Vol.30「子連れ狼 三途の川の乳母車」
「子連れ狼 三途の川の乳母車」
監督 三隅研次
原作 小池一雄
製作 勝新太郎、松原久晴
キャスト 若山富三郎、松尾嘉代、大木実、小林昭二、岸田森、新田昌玄
冥府魔道に堕ち乳母車に息子を乗せて、一殺五百両で刺客として旅をする「子連れ狼」
シリーズの2作目。
ストーリーが続いているとは知らず、1作目を飛ばして「子連れ狼」シリーズの中でも
人気の高いらしい、今作から見てしまった。
なので、今からこのシリーズを見始める人は是非とも1作目「子連れ狼 子を貸し腕貸
しつかまつる」から見て頂きたい。
このシリーズの原作は、小池一雄原作・小島剛夕画の漫画(劇画)が原作で
すでに、漫画としても人気を集めていた。
劇画漫画という事もあり、映画にぴったりの題材だったということもあって最初は
テレビドラマとして勝プロダクションの代表だった、勝新太郎に話が持ち込まれたが
勝新太郎の兄の若山富三郎が「あれは、自分がやりたい」ということで
「じゃあ、俺がプロデューサーで兄ちゃんが出ればいい」と映画化する事になった。
そして、見事に一作目が大ヒットし六作目までシリーズは続いた。
映画一作目の後に、萬屋錦之介が拝一刀を演じてドラマ化されている。
海外でも、配給されて大ヒットを記録している。
想像以上に、血は噴き出す、腕は吹き飛ぶ、鼻は取れる、顔はグチャグチャにされる
と、なかなかのスプラッターぶりに驚いた。
今だったら、R指定になっているだろうな・・・。
漫画原作と言うこと手伝って、かなり荒唐無稽な決闘シーンが多い。
映画もドラマも見たことが無かった筆者が、一番驚いたのは拝一刀の息子・大五郎まで
があんな可愛い顔をして、父親の殺しの手伝いをしているのにはうけた。
大五郎が、乗っている乳母車に「007」シリーズのボンドカーばりの
仕掛けが施されていて、ボタンをポンと押すと乳母車のタイヤの横から鋭い刃が飛び出
し、それで敵の足首を切り捨てたりと、もうやりたい放題。
敵たちのキャラクターもかなり強烈。
今作で登場する、「弁天来」と言う三兄弟の殺し屋や
明石柳生一族の女当主・柳生鞘香もなかなか強烈だが、
鞘香が率いる、「別式女」と言う女の殺し屋集団などなどが登場し
拝一刀と大五郎に襲い掛かる。
そして、血みどろにされて返り討ちを喰らう。
特に「別式女」との対決シーンは、爆笑必至。
別式女たちは、小川で大根を洗い農家の娘に扮しているが実は洗っている大根の中に
小刀が隠されていて、拝一刀と大五郎が現れるとそれを大根を投げ飛ばす。
「どんだけ、頑丈な大根やねん!!てか、どうやって大根に小刀隠したんだよ!!」と
突っ込みたくなる。
そんな、ツッコミを入れながら見て頂くととても楽しめる映画のような気がする。
最後の「弁天来」との砂丘での対決シーンはとてもカッコいい。
砂埃が風で巻き上げられる中、走り回る男たちはマカロニウエスタンさながらの迫力。
若山富三郎の大柄な体型からは、あまり想像の出来ない身のこなしにも驚かされた。
とにかく、見どころ満載、満腹感十分の作品だった。
映画徒然日記Vol.29「スパイ・ゲーム」
「スパイ・ゲーム」(2001年/アメリカ)
監督 トニー・スコット
脚本 マイケル・フロスト・ベックナー、デイヴィッド・アラタ
キャスト ロバート・レッドフォード、ブラッド・ピット、キャサリン・マコーマック
トニー・スコットが、この世を去って7年が経つ。
その日は、真夏のとても暑い日だったのを覚えている。
この「スパイ・ゲーム」と言う作品は公開当時劇場で見たっきりで、ストーリーもあまり覚えていなかった。
しかし、今回再見してみると
「めちゃくちゃおもろしろいですやん!!」.
それと共に、今までトニー・スコットの兄貴であるリドリー・スコット派だった筆者だったが、今回でトニー・スコットを勝手に再評価。
定年を迎えるCIAのネイサン(レッドフォード)の元に自分の直弟子のビショップ(ピット)が中国でスパイ容疑で逮捕されたと聞き、退職の日に直弟子救出作戦に乗り出すと言うようなストーリーなのだが、ほぼ世界を飛び回る2人の回想シーンと現在を行き来する構成になっていて、下手すると観客は混乱しかねないがトニー・スコットは、画面の色味で場所や時代をさりげなく区別したりと工夫を凝らしている。
トニー・スコットの作品の特徴として、とてもテンポが良いと言うのがあるが、この作品もそこまで派手なシーンがあるわけではなく、どちらかと言うとスパイの頭脳戦よりのスパイ映画だが、最初から最後までジェットコースターに乗っているような感覚で目が離せない。
CIAのベテラン工作員を演じる、ロバート・レッドフォードもまた監督をしている俳優の一人だ。
なので、トニー・スコットはかなり最初は緊張したとか・・・。
ドイツでの任務で、ネイサンとビショップがビルの屋上で口論をするシーンの撮影の際に、二人が話すのをいろんな角度からカメラが狙い撮影を行っているが、その中でもレッドフォードを驚かせたのは、ヘリからの空撮だった。
最初は、トニー・スコットに何故空撮をするのか疑問を呈したらしいが
完成品を見て、ビショップの心情をブラッド・ピットの演技だけでなく映像でもより表現する為に用いられた演出だったと知ったなんて話も残っている。
個人的に、ここ5~6年あまり面白いと心の底から感じさせてくれる
アクション、サスペンス映画が減ったなと、げんなりさせられていた。
原因は、「マーベル」などのアメコミ映画が増えたことも一理あるのかもしれない。
マーティン・スコセッシが「マーベル」映画は映画ではないと言う
発言でニュースになっていたが、その意見に一票!と思ったが・・・。
面白いアクション映画が減ったのは、それだけがすべての原因じゃない。
「スパイ・ゲーム」を改めて見て、トニー・スコットの演出力と独特な映像世界を見て
いて存在感の大きさとハリウッドのアクション、サスペンス映画に欠かせない監督の一
人だったっと心底思うと共に、ハリウッドにとって大きな損失となったことを再認識さ
せられた。
映画徒然日記Vol.28 「3月のライオン」
「3月のライオン」(2017・日本)
監督 大友啓史
原作 羽海野チカ
キャスト 神木隆之介、有村架純、倉科カナ、染谷将太、伊藤英明、佐々木蔵之介、豊川悦司
出てくるキャラクターは、みんな将棋に人生をかけている。
自分には、将棋しかないのだと将棋に人生をかけて、将棋の駒に人生を狂わされたキャラクターが多く出てくる。
主人公の桐山もその1人。
複雑な環境で育ち将棋に取り憑かれながらも、将棋仲間や近所に住む同級生家族、そして義理の父に励まされながら、将棋で人生を登り詰めていく桐山。
筆者は、将棋には詳しく無いがプロの将棋の世界を垣間見ながら、将棋だけではないが勝負の世界は恐ろしい物だと思わされた。
あまり、関係ないが岩松了が「きりやま」と言うたびに、テレビドラマ「時効警察」の時効管理係長の熊本を連想してしまう・・・笑
漫画原作なので、仕方のない事なのかもしれないが、細かい部分がとにかく雑なのだ。
例えば、桐山が将棋仲間に酒を飲まされ(自分からか?)酔い潰れている所を倉科カナ演じるあかりに介抱され、翌日目が覚めるとあかりの家で目を覚ます。
あかりは、三人姉妹で次女のひなたは桐山と同級生。
朝から遅刻してしまうと、ドタバタしながら桐山に朝食を用意して、戸締りだけよろしくと家の鍵を渡してあかりも、ひなたも出かけてしまう。
そして、鍵を前田吟演じる三姉妹の祖父の経営する和菓子屋に返しに行くと、祖父は将棋に詳しくいきなり歓迎ムード。
その晩またしても、あかり姉妹の世話になる桐山。
・・・ってこんな、家族いねぇよ!!
ひなた曰く、「お姉ちゃんは、ヒョロヒョロの痩せた人を見るとほっとけない」らしいが、どんな女やねん!
これは、漫画なら許されるかもしれないが映画は人間が演じてるわけで、こういう細かいところがこんなセリフ一つで片付けられても、納得はいかない。
これが、世紀末の世界の終わりでほぼ人間のいない世界などで、助け合う為にという設定ならまだしも、この作品は現在の現実の世界が舞台だ。
どんだけ、神木隆之介が可愛い顔してるからってゲロまみれで道端に高校生が倒れていたら、家に連れていくより、警官を呼びなさいよ。
そして、有村架純演じる香子が桐山を虐め倒すが、とても優しい義理の父の娘が、あそこまで歪んだ根性悪になってしまうのだろうか?
将棋の英才教育がそうさせてしまったのか?
しかし、豊川悦司演じる義理の父・幸田とその妻を見る限り、ちゃんとした両親に見える。
幸田が、実はロリコンで自分の娘にも手を出していたとかなら、まだ分かるが特に何故にゆえにあそこまで歪み腐って育ってしまったのかは語られない。
この作品の前に紹介した記事の映画は、マーティン・スコセッシ監督の「アイリッシュマン」だったがジャンルは全く違うので比べるのはおこしいが、あちらは一人一人の主要人物のキャラクターを203分という時間を使って丹念に丁寧に描いていた。
こちらは、それよりも長い時間を使ってるにも関わらず、この有様だ。
漫画原作の映画化が、未だに多く制作されている昨今。
制作者側の漫画原作のファンによせた作品にするべきか、映画ファンによせた作品にするべきかの葛藤はついて回る物な気がする。
筆者は、あまり漫画原作の映画は見ないので比べる事は出来ないが、どの作品もどちらのファンからも賛否両論で手放しで評価される作品はあまり聞かない。
この作品も、興行的に見るとあまり芳しくなかった様だ。
アニメやマンガが、より一層日本の誇るべき文化になりつつある中、邦画は昔のように誇れるものではなくなってきている。
今では、マンガやアニメの力を借りなければ日本の映画界は成り立たないのが現状のようだ。
このまま、自立できないまま漫画原作におんぶに抱っこのままではきっと邦画に明るい未来はない。
まだこの先も、漫画原作ものは作られていくのだろうが、あまり期待はできないと筆者個人は思ってしまう。
量産と興業に力を入れる事も大切だが、もっと質にこそ一本一本の作品に込めるべきだ。
でなければ、この作品に関わったスタッフ、キャスト、そして観客に失礼だ。
なかなか、今の邦画界ではそれも難しい事なのかもしれないが、映画ファンとしては怒りを感じれずにはいられない。
長々と怒りに任せて書いてしまい、申し訳ありません。
そして、この映画のファンの方がもしこの記事を読まれて不快な思いをさせてしまったら、すいません。
映画徒然日記Vol.27 「アイリッシュマン」
監督 マーティン・スコセッシ
脚本 スティーヴン・ザイリアン
キャスト ロバート・デ・ニーロ、アル・パチーノ、ジョー・ペシ、ハーヴェイ・カイテル
1980年に、マーティン・スコセッシが監督しロバート・デ・ニーロがプロボクサーのジェイク・ラモッタを演じ、ジョー・ペシも共演した「レイジング・ブル」が公開され、その後マフィア映画の傑作「グッド・フェローズ」、「カジノ」とこのトリオは切っても切れない。
そして、最後にこのトリオで作られた「カジノ」以来、14年ぶりにスコセッシ、デ・ニーロ、ジョー・ペシ、トリオが復活したのだ。
そしてそして、スコセッシの「ミーン・ストリート」でデ・ニーロと共演し、スコセッシ映画のこちらも常連俳優・ハーヴェイ・カイテルも出演していて、
そしてそしてそして、な、な、なんと!!
あの、デ・ニーロと肩を並べ比較される名俳優アル・パチーノも出演するとなれば、これは映画マニアからすれば今世紀一番の話題作で、見ないわけにはいかない!
そんな、筆者個人的には今年はこの作品で締めくくっていいのではないかと思わされる作品が「アイリッシュマン」だ!
と、最初からテンション上げまくってしまいました・・・すいません。
これは、初日に映画館に直行や!と決意していた。
しかし、この作品なんとNetflixでのみの配信というニュースを見て絶望してしまった。
Netflixのような、配信サービスで見る事に反発があるわけではないが、やはりこういった名俳優の演技合戦や予告編を見る限りスケールの大きい映画らしい映画はやはり、映画館で観たいものだ。
そこへ、かなり限定された映画館のみではあるが11月15日にNetflixで配信されるのと同時に、劇場で上映される事になった。
本当に、ありがとう!!
と言う事で、小さい劇場ではあるが
アップリンク吉祥寺へ!
いやぁ〜!こりゃパソコンやタブレットの様な小ちゃい画面じゃ見ちゃ良さが半減しますよ〜!
家で気軽に見れる映画ならいいが、「アイリッシュマン」はしっかりと腰を据えて210分と言う長尺に挑んでいただきたい。
と、前振りが長くなってしまいましたが
作品としては、晩年老人ホームで生活しているフランク・シーラン(デ・ニーロ)の語りにより、全米トラック運転組合に所属しながら、大統領の次に力を持っていたと言われる全米トラック運転組合の委員長を務めた、労働組合の指導者であるジミー・ホッファ(アル・パチーノ)の右腕として人殺しなどの汚れ仕事を行った過去を回想していく。
この主人公が語り部となり回想形式を取る作品は、スコセッシならでは。
生肉をトラックに積み込み、トラックで各地へ届ける運転手をしていたフランクは、エンジントラブルにより、道中立ち往生しそこへたまたま出くわしたラッセル・ブファリーノ(ジョー・ペシ)にトラックを修理してもらったのが縁で裏社会へ足を突っ込んでいく。
フランクの40代から最晩年80代までが描かれるのだが、デ・ニーロ自身も今は76歳。
若い頃のシーンは、インダストリアル・リアル&マジックという、特殊効果により若返らせて演じている。
「レイジング・ブル」や「グッド・フェローズ」での、気が狂った様に怒り狂うデ・ニーロやジョー・ペシの姿は影を潜めていたのが、少し寂しくもあるが、邪魔者がいれば至近距離で銃弾を打ち込むデ・ニーロ、グツグツとサングラスの奥から静かに狂気を滾らせているジョー・ペシの存在感はさすがだ。
目に余る傲慢さで、次々と周りから愛想を尽かされていくホッファを守り抜こうとするフランクを友人として説得するラッセルの語り合いは涙もん。
一番今作で、病的に傲慢でら頑固で怒りを爆発させ狂っていたのはジミーホッファを演じたアル・パチーノだ。
1983年のブライアン・デ・パルマが監督し、オリバー・ストーンが脚本を書いた、コカインの密売でチンピラからギャングの頂点へ上り詰め大金持ちになる、トニー・モンタナをアル・パチーノが演じた「スカーフェイス」を彷彿とさせる狂い様で、観ていてワクワクさせられた。
フランクとラッセル、フランクとホッファの友情の物語であり
ホッファに振り回され、仲間を裏切り、そして家族も失ってしまう、男たちの悲哀を描いた傑作だ。
そして、もしかしたらこの様な最高のチームで作品が発表される事はそれぞれの年齢などを考えると難しいかもしれない。
それを思うと、フランクたちの悲哀と共にエンドロール中は切ない気持ちにさせられた。
映画徒然日記Vol.26 「バッド・ジーニアス 危険な天才たち」
「バッド・ジーニアス 危険な天才たち」(2017年/タイ)
監督 ナタウット・プーンピリヤ
キャスト チュティモン・ジョンジャルーンスックジン、チャーノン・サンティナトーンクン、ティーラドン・スパパンピンヨー、イッサヤー・ホースワン
秀才たちが、おバカな生徒たちから報酬を受け取って
カンニングを請け負うという単純なストーリーながらハラハラドキドキさせられた。
頭が良くても、お金持ちでも
一人一人、生徒それぞれに何かを抱えているのをしっかりと描きながら
エンターテイメント作品に仕上げていた。
中国で起こった、カンニング騒動のニュースを見て
プロデューサーのジラ・マクリンが映画化を進めた。
その際に、ナタウット・プーンピリヤに監督に抜擢。
ナタウット監督は、中国のカンニング騒動について取材をしたりと
様々、インタビューをして脚本を1年半かけて完成させた。
そのインタビューの中で、現役の学生が「試験はたぶん地球上で一番つまらないこと」
と答えたという。
そんな、「たぶん地球上で一番つまらないこと」を題材にここまでスリリングで緊張感
を2時間と少し維持させながら進めて完成させた事に感嘆してしまう。
ナタウット監督は、MTVなどやCMなどの映像ディレクターとして活躍していたことも
あり、カンニングという地味になってしまう様な題材をスタイリッシュに作り上げてい
る。
様々な、スリリングなカンニングシーンの中に、自分にはあまり馴染みのない
タイの社会的背景も盛り込んでいる。
同じ学校に通いながらも、片や自分の家にプールがあり親から高級スポーツカーを買っ
てもらってる生徒がいれば、片や母子家庭で個人経営のクリーニングを手伝う生徒など
貧富の差がとても激しい国であることが浮き彫りなっている。
そんな、格差社会の中でかしこく生きていく方法として、「カンニング」が用いられ
わけだ。
しかし、どんな理由であれ不正は不正だ。
彼らを待ち受けるのは、夢のような留学生活なのか?
それとも、現実の世界なのか・・・?
粗削りな部分もなくはないが、最後まで頭を空っぽにして
ハラハラドキドキさせられるなかなかの秀作だった。