映画徒然日記Vol.13 「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ウェスト」(前編)
私は、1989年(平成元年)生まれなのだが
その年、ある巨匠と言われた映画監督がこの世を去った。
その名は、セルジオ・レオーネ・・・。
「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ウエスト」(1986年/イタリア・アメリ
カ)
監督 セルジオ・レオーネ
原案 セルジオ・レオーネ、ダリオ・アルジェント、ベルナルド・ベルトルッチ
脚本 セルジオ・レオーネ、セルジオ・ドナティ、ミッキー・ノックス
音楽 エンニオ・モリコーネ
キャスト クラウディア・カルディナーレ、チャールズ・ブロンソン、ジェイソン・ロバーズ、ヘンリー・フォンダ
「昔々、西部で・・・」
ただいま、大ヒット上映中のクエンティン・タランティーノ監督の「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」のタイトルの元となっている映画。
タランティーノは、
「『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ウェスト』を見て映画監督になろうと思
った。この作品自体が自分にとっての映画学校だった」
とコメントしているぐらい、この作品が大好きらしい。
タランティーノは、以前インタビューでレオーネ「続・夕陽のガンマン地獄の決斗」
は、生涯ベスト1だと語った事があるぐらい、レオーネ作品に傾倒しているのだ。
この作品は、サム・ペキンパーの「ワイルド・バンチ」と並んで最後の西部劇と言われ
た作品で、ストーリーも鉄道の線路や駅の建設により、文明の新しい波が押し寄せつつ
ある、西部開拓時代の中で、一つの時代の終わりと新しい文明の中で「復讐」に執念を
燃やしながら生きる人間を描いている。
この作品の前に、レオーネは日本では「ドル箱三部作」と言われている
「荒野の用心棒」、「夕陽のガンマン」、「続・夕陽のガンマン 地獄の決斗」を撮り
「マカロニ・ウエスタン」(日本では、映画評論家の淀川長治氏が「スパゲッティ・ウ
エスタン」と呼んだ)のブームを巻き起こし、大ヒットを飛ばした。
「荒野の用心棒」では、低予算で衣装なども他の作品で使ったものを使い回しで使用さ
せられるほど、製作費をケチられ、興行的にも期待されていなかったが、まさかの大ヒット。
「荒野の用心棒」に続く、他の2作品では着々と予算が上げられていき
レオーネは、巨匠の階段を着実に上っていった。
そして、「ドル箱三部作」の大ヒットによりスタジオがレオーネに頭を下げて
「もう一本、西部劇を撮ってくれ!」と頼まれて撮ったのが
この作品なのだ。
最初、レオーネは「西部劇」に飽き飽きしていて撮る気がなかった。
レオーネの遺作となる禁酒法時代のギャング映画「ワンス・アポン・ア・タイム・イ
ン・アメリカ」の構想を練っていて、力を入れていた。
じゃあ、何故レオーネはもう一度「西部劇」を撮る事を快諾したのか??
それは、ヘンリー・フォンダとチャールズ・ブロンソンの出演と過去最大級の製作費が
出資されるという事でレオーネは、重たい腰を上げたのだ。
レオーネは、ヘンリー・フォンダの大ファンで「荒野の用心棒」でクリント・イースト
ウッドが演じた主人公をヘンリー・フォンダに依頼しようとしていた。
当時、「荒野の用心棒」のシナリオをヘンリー・フォンダのエージェントに渡したが低
予算の作品に難色を示したのか、エージェントはヘンリー・フォンダにシナリオを渡す
ことは無かったという。
同じく、チャールズ・ブロンソンも「荒野の用心棒」にて主人公を依頼された一人だっ
たが、シナリオを読んで断った。
「夕陽のガンマン」でも、二人に出演依頼をしたが同じく断られた。
そんな、経緯もありレオーネにとってヘンリー・フォンダとチャールズ・ブロンソンの
出演が決まったという事は長年の念願が叶ったという事だった。
「続・夕陽のガンマン 地獄の決斗」でも、南北戦争が作品の大きな要素となってお
り、橋の爆破などスケールの大きい撮影が行われ、製作費は130万ドルだったが
今作は、300万ドルという製作費がつぎ込まれた。
ほとんどが、キャストの出演料だったとの事だが、西部の町や駅のセット、エキストラ
などにも力を入れられた。
レオーネ自身が、原案・脚本を執筆した今作。
「ドル箱三部作」とは、違うものを作りたいという気持ちを変わらず持っていたレオー
ネは、今まで一緒に脚本を執筆してきたメンバーを一新。
そこで、声がかかったのが後々大監督となる、ベルナルド・ベルトルッチ。
ベルナルド・ベルトルッチは、「暗殺の森」や「ラストタンゴ・イン・パリ」、「19
00年」、そして「ラスト・エンペラー」など重厚で独特の作家性を打ち出した作品を
世に送り出した監督の一人。
当時は、まだヒット作などがなかったベルトルッチに声をかけたレオーネ。
そして、もう一人ベルトルッチの知り合いでもあった
「サスペリア」、「インフェルノ」などのホラー映画の巨匠であるダリオ・アルジェン
トも参加する事になった。
ベルトルッチも、アルジェントも、相当な映画マニアだったらしく
三人で、数か月に及び「西部劇」について語り合って原案の執筆が進んでいった。
レオーネは、今作を「ドル箱三部作」とは方向性を全く違う物にしたいというのと
自分の作家性をもっと押し出した作品にしたいという事を念頭に置いていた。
そこで、参考にした作品がある。
ルキノ・ヴィスコンティの「山猫」。
レオーネは、西部劇版「山猫」を撮ろうと目論んだ。
ちなみに、今作のヒロインであるクラウディア・カルディナーレは「山猫」にも出演し
ている。
しかし、原案が完成し脚本に取り掛かろうとしたところで
ベルトルッチとアルジェントが、途中離脱することに・・・・。
そこで、脚本執筆に雇われたのが
「夕陽のガンマン」と「続・夕陽のガンマン 地獄の決斗」の脚本協力していた
セルジオ・ドナティ。
ドナティは、レオーネから渡された原案を元に自身でアイディアを膨らませながら
なんと、25日間で脚本を完成させてしまう。
イタリア語で書かれた内容やセリフを、英語訳にミッキー・ノックスが直し
そして、いよいよ撮影がスタートする。
ちょっと、興奮が冷めやらないうちに長々と書いてしまったので
今日はいったんここまで!
後半へ続く・・・。